家ではよくしゃべるのに、園や学校では一言も話さない。先生に当てられても固まってしまう。「場面緘黙(ばめんかんもく)かもしれません」と言われて、初めてこの言葉を知った保護者の方も多いと思います。
先に結論をお伝えします。場面緘黙とは、家庭など安心できる場所では話せるのに、学校のような特定の場面になると声が出せなくなる状態のことです。
本人がわざと黙っているのでも、しつけの問題でもありません。家庭でできることは「話させる練習」ではなく、話さなくても安心して過ごせる場を守り、学校と専門機関に早めにつなぐことです。
自己紹介が遅れました。小幡和輝です。約10年間の不登校を経験し、当時の僕を支えてくれた場所がフリースクールでした。
いまはそれを運営する側として、本を書いたり、2000人以上の子どもたちとご家庭に関わっています。その中には、教室で声が出せないことをきっかけに登校がつらくなったお子さんも少なくありません。
この記事では、場面緘黙の基本と、家庭での対応、学校への頼み方、学びを止めない選択肢までを整理します。
場面緘黙とは。「話さない」ではなく「話せない」
場面緘黙は、選択性緘黙とも呼ばれます。この名前から「本人が話す場面を選んでいる」と誤解されやすいのですが、実際は逆で、話したくても体が固まって声が出ない状態です。家では家族と普通に会話し、きょうだいげんかもするのに、園や学校では返事も挨拶もできない、という落差が特徴です。
医学的には不安に関わる症状のひとつとして扱われていて、園や小学校への入園・入学など環境が大きく変わる時期に気づかれることが多いとされています。「恥ずかしがり屋が強いだけ」と見過ごされて、気づいたときには何年も経っていた、というケースもあります。
教育の制度上は、文部科学省の通知で「主として心理的な要因による選択性かん黙等」が情緒障害の区分に位置づけられていて、通級による指導や特別支援学級の対象になりうることが明記されています。[1]
つまり、学校の側にも「支援の対象として知っておくべき状態」として認識されているものです。そして同じ通知には、対象かどうかの判断は「医学的な診断の有無のみにとらわれない」ようにとも書かれています。診断がついていない段階でも、学校に相談してよい根拠がここにあります。
ただし、お子さんが場面緘黙にあたるかどうかは、この記事で判断できるものではありません。気になる様子が続くときは、小児科や児童精神科、自治体の発達相談窓口、スクールカウンセラーなどの専門家に相談してください。
学校で話せない子が、実際に困っていること
場面緘黙の子が困るのは、発表や音読のような「話す場面」だけではありません。2000人以上のご家庭と関わる中で聞いてきた、教室での困りごとを挙げます。
- 困ったときに助けを求められない トイレに行きたい、体調が悪い、忘れ物をした。声が出ないので伝えられず、我慢し続けてしまう
- 理解しているのに評価されにくい 音読や発表ができないと、内容がわかっていても「できていない」と見られることがある
- 友だち関係が広がりにくい 話しかけてもらっても返せないので、周りから「無視された」と受け取られてしまうことがある
- 本人が自分を責めている 「なんで自分だけ話せないんだろう」と、誰よりも本人が苦しんでいることが多い
4つ目がいちばん大事です。周りからは「おとなしい子」に見えても、本人の中では毎日かなりのエネルギーを使って教室に座っています。
その疲れが限界を超えたとき、朝起きられない、お腹が痛いといった形で表に出て、登校がつらくなることがあります。
場面緘黙そのものが不登校の原因になるわけではありませんが、教室で安心できない状態が続けば、学校から足が遠のくのは自然なことだと僕は思います。
家庭での対応。やらないことを先に決める
家庭でできる対応は、何かを足すことより、何をやらないかを決めることから始まります。
- 「どうして話さないの」と聞かない 本人にも理由はわかりません。聞かれるたびに「話せない自分」を突きつけられ、緊張が強まります
- 話す練習を家で強要しない 「学校でも家みたいに話してごらん」は、本人にとっては「できないことをやれ」と言われているのと同じです
- 話せたことを大げさに褒めない 声が出た瞬間に周りが大喜びすると、次に話すハードルがかえって上がります。話せても話せなくても同じ態度でいるのが安心につながります
- 話さなくても伝わる手段を用意する うなずく、指さす、カードを見せる、書いて渡す。「声を出す」以外の伝え方がある、と本人が知っているだけで、教室で助けを求めやすくなります
そのうえで、家庭は「話せる場所」として守ってください。家でたくさん話せている事実は、お子さんの言葉の力そのものは育っている証拠です。家での会話が減ってきたと感じたら、疲れがたまっているサインかもしれないので、休ませることも考えてください。
理由を言わない・言えないお子さんとの関わり方は、こちらの記事でも詳しく書いています。
>>学校に行きたくない理由を言わない・わからないとき。聞き出さずに親ができること
学校への頼み方。「合理的配慮」という言葉を使っていい
家庭で守るだけでは、教室での毎日は変わりません。学校に具体的に頼むことが必要です。ポイントは、担任の先生に「配慮してください」と漠然と伝えるのではなく、「この場面で、こうしてほしい」を具体的に渡すことです。
たとえば、次のような頼み方があります。
- 発表や音読の代替 声の代わりに書いたものを見せる、先生が代読する、事前に録音したものを流す
- 出欠や健康観察の返事 名前を呼ばれたら手を挙げる、うなずくで代える
- 困ったときの合図 トイレや体調不良をカードや決まったジェスチャーで伝えられるようにする
- 無理に話させない共通認識 「本人が話せたら自然に受け止め、話せなくても促さない」を、担任だけでなく学年の先生や専科の先生とも共有してもらう
相談の窓口は、担任のほかに、特別支援教育コーディネーターという役割の先生や、スクールカウンセラーがいます。担任に話しにくいときは、そちらから入っても構いません。
前の章で触れたように、文部科学省の通知で選択性かん黙は支援の対象として位置づけられているので、「配慮をお願いするのはわがままではないか」と気後れする必要はありません。
スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーのどちらに何を相談すればいいかは、こちらの記事で解説しています。
>>スクールカウンセラーとスクールソーシャルワーカーの違い。どちらに何を相談する?
教室で過ごすこと自体がつらくなっているときは、学校の中だけで抱えず、家から学べる場所を並行して用意しておくと、本人の安心が保てます。
声が出た日のこと。変化は突然やってくる
僕たちが運営する場所で、半年間ひとことも話さなかった子がいました。その子が初めて声を出したのは、eスポーツの大会の日でした。保護者の方が泣いていました。
このエピソードを紹介するのは、「eスポーツをやれば話せる」と言いたいからではありません。
話すことを求められず、話さなくてもそこにいていい場所だったことが、その日につながったのだと僕は思っています。
変化は、こちらが用意したタイミングではなく、本人の準備が整ったときに突然やってきます。大人にできるのは、そのときまで安心できる場を切らさないことです。
登校がつらくなったときの選択肢。学びと居場所を切らさない
場面緘黙のお子さんが登校しづらくなったとき、保護者の方が心配するのは「勉強が止まってしまうこと」と「人と関わる機会がなくなること」の2つです。
ここで知っておいてほしいのは、学校以外の場所で学ぶことは、教育機会確保法という法律で認められた選択肢だということです。適応指導教室と呼ばれる教育支援センターや、対面やオンラインのフリースクールなど、学校の外にも居場所と学びの場があります。
また、声を出さなくても参加できる環境を選ぶ、という視点も大切です。チャットで先生とやりとりできる、カメラをオフにして参加できる、集団の中で当てられることがない。
こうした環境なら、話せないことが参加の壁になりません。「話せるようになってから外に出る」のではなく、「話さなくても参加できる場で、まず人とつながる」順番のほうが、僕が見てきた範囲では本人の負担が軽いです。
学校以外の相談先や居場所の全体像は、こちらの記事にまとめています。
>>不登校の相談先はどこ?公的・民間の相談窓口一覧と使い分け
クラスジャパン小中学園という選択肢
教室で声が出せないことをきっかけに登校がつらくなっているお子さんには、オンラインフリースクール「クラスジャパン小中学園」という選択肢があります。
ネットの先生(担任)が一人ひとりに付いて伴走し、自宅から自分のペースで学べます。やりとりは声を出さなくてもできるので、話せないことが参加の壁になりません。
2018年の開校から、これまでに2000人以上の不登校の子どもたちをサポートしてきました。
学習面では、生徒一人ひとりにカスタマイズされた最先端のAIサポートがあります。答えをすぐ教えるのではなく、ヒントを出しながら一緒に考えるAIなので、教室で質問できずに置いていかれた単元も、わからない場面でつまずかずに答えまで辿り着けます。
学習以外の用途には使えないフィルタリング設定付きで安心です。一定の要件を満たせば在籍校の出席扱いになる制度もあり、クラスジャパンはこの仕組みを学校や自治体と一緒につくってきた先駆けです。
今日できる一歩
今日できる一歩として、お子さんが教室で困っている場面を1つだけ書き出してみてください。
「健康観察の返事ができない」「トイレに行きたいと言えない」のように、場面と困りごとをセットにします。
それを連絡帳か次の面談で「この場面で、うなずきやカードで代えられませんか」と伝えるだけで、学校との相談は具体的に動き始めます。
まとめ
場面緘黙とは、家では話せるのに学校などの特定の場面で声が出せなくなる状態で、本人の意思でもしつけの問題でもありません。文部科学省の通知でも支援の対象として位置づけられていて、診断の有無だけで判断しないことが求められています。
家庭では話す練習を強いるより、話さなくても安心できる場を守ること。学校には場面ごとの具体的な配慮を頼むこと。そして登校がつらくなったら、声を出さなくても参加できる学びの場を用意しておくこと。
この3つが、僕が2000人以上のご家庭と関わってきて大切だと感じている順番です。
なお、僕は医師ではないので、診断や治療に関わることはお答えできません。
気になる様子が続くときは、小児科や児童精神科、自治体の発達相談窓口など、専門機関への相談も並行してください。
完璧な正解を最初から選ぶ必要はありません。迷っている段階の相談こそ歓迎です。ひとりで抱え込む前に、話してみてください。
よくある質問
場面緘黙は、本人がわざと話さないのですか?
違います。話したくても不安や緊張で体が固まり、声が出せない状態です。「どうして話さないの」と聞いたり話す練習を強いたりすると、かえって緊張が強まります。家庭では話さなくても安心して過ごせることを優先し、気になる様子が続くときは小児科や児童精神科、自治体の発達相談窓口などに相談してください。
診断がなくても学校に配慮を頼めますか?
頼めます。文部科学省の通知では、選択性かん黙は通級による指導などの対象として位置づけられていて、対象かどうかの判断は医学的な診断の有無のみにとらわれないこととされています。担任のほか、特別支援教育コーディネーターやスクールカウンセラーにも相談できます。
場面緘黙の子は、オンラインフリースクールに参加できますか?
参加できます。クラスジャパン小中学園ではネットの先生(担任)とのやりとりを声を出さずに進めることができ、話せないことが参加の壁になりません。一定の要件を満たせば在籍校の出席扱いになる制度もあります。
出典
